INTERVIEW

Sound and Beauty

音と美 vol.3ー「自分の中の美」を感じる 【前編】

両足院・副住職 伊藤東凌氏

2022年2月4日 Written by CRYSTAL BEAUTÉ WRITER

ー音がもたらす美と安らぎを、すべての人にー

クリスタル・ボーテ・インタビューvol.3のゲストに、両足院・副住職の伊藤東凌さんをお迎えしました。伊藤さんは、デジタルの活用、アートとのコラボレーション、海外でのイベント実施など、従来のお寺のイメージを覆すような、柔軟かつ斬新な活動をしていらっしゃいます。伊藤さんに、瞑想や坐禅の「音」の活用、「音と美」についてお話を伺いました。

■「究極のセルフケアセンター」としてのお寺

お寺の役割はいくつもありますが、私は、お寺を「究極のセルフケアセンター」と表現できると思っています。「セルフケア」とは、日常生活や家庭の悩み、仕事の悩みに対する心のあり方を探ったり、生活そのものを広く見直したり、ご先祖様との繋がりを感じ直したりといったことを含みます。
特に、現代社会に住む私たちは、デジタル・デバイスに頼りすぎて、自分の感覚を使わなくてもラクに生活できる一方、感性が鈍ってしまっています。坐禅は、鈍った感性を取り戻すひとつの方法といえますが、「坐禅で感性を開きましょう」と伝えても、なかなか難しいものです。ですから私は、体からのアプローチとして、ヨガなどのボディワークや食と組み合わせる試みをしています。
さらに、感性の細部とつながりたいときに必要になるのは、アートの力だと思っています。アーティストの目線や表現に触れること自体が、感性への刺激となります。また、アートが映し出すアーティストの提案や問いに向き合い、自分の感性に照らし合わせて答えを出したり、別の問いを生み出すことで、より感性が豊かになっていくのです。そうした考えのもと、両足院では、アーティストの方々にご協力いただき、アート展などを積極的に開催しています。

■瞑想の場を作る「音」の活用

仏教では、音を出す道具として、木柝(もくたく)やおりんなどがあり、あらゆるシーンで音の効用が取り入れられています。たとえば、坐禅の際は、おりんを4回鳴らし、その音を聴きながら、気持ちを落ち着かせていきます。やがて、おりんの音を聞くだけで、条件反射のように体の力が抜けて、リラックスできるようにもなります。
私が、瞑想や坐禅の場を整える音として、坐禅以上の効果を感じているのが、クリスタルシンギングボウルです。数年前に興味を持ち、クリスタルシンギングボウルのスペシャリストであるRAURAさんに連絡を取りました。RAURAさんは当時パリ在住でしたが、ロサンゼルスで開催されるイベントに合流していただき、一緒に瞑想プログラムを実施しました。
その際に初めてクリスタルシンギングボウルの生演奏を聴いたのですが、耳で聴く音楽というよりは、振動がダイレクトに体に入ってくる感覚で、衝撃を受けました。
私は、瞑想や坐禅をするときに、心よりも体からアプローチすることが多いのですが、クリスタルシンギングボウルは、まさに体へのアプローチ。私が感じていた空間のあり方、自分自身の体の輪郭や、外部との壁となる境界線が、振動で揺らぐイメージがありました。体の壁は、心の壁に通じますから、体が完全に脱力して、自分自身の存在が揺らぎだと感じられる状態こそが、最高のリラックス状態なのです。クリスタルシンギングボウルは、揺らぎをもたらす装置として、瞑想や坐禅に非常に適していると感じました。
それ以降、2019年に始めたホテルでの坐禅会をはじめ、折に触れて、クリスタルシンギングボウルを活用しています。特に、ホテルのように、お寺以外の会場で坐禅や瞑想を行う場合、BGMがかかっていたり、空調などの機械音が気になったり、なかなか集中できないこともあります。そのような時に、クリスタルシンギングボウルを鳴らすと、空気が中和されるイメージがあります。

■閉ざされた「音への感性」を取り戻す

私は、あえて工事の音がうるさいような場所でクリスタルシンギングボウルを鳴らし、中和を試みるような使い方も好んでいます。
都会は、車の音、地下鉄のアナウンス、他人の会話など、あまり聴きたくない音に囲まれていますよね。現代人は、こうしたノイズを自然にキャンセリングする癖がついています。つまり、無意識に自分の用事に必要のない音に対する感覚を閉じてしまっているのですね。この癖がついていると、いざ美しい音を聴いて、心を豊かにしようと思っても、なかなか心に届かないものです。そういうときは、山や川など、自然に囲まれた空間に行くことをおすすめします。「安心して感覚を開き、すべての音を受け入れる」という体験をすることで、音に関する自分の感性を取り戻すことができます。
特に都会の子ども達は、聴覚に限らず、無意識のうちに五感のすべてを閉じて身を守っています。五感を育むために、豪華な食事や、特別な景色は必要ありません。自然に触れて、その繊細な美しさに気づくことが、感性を培い、心の美しさや豊かさにつながっていくと思います。

両足院 https://ryosokuin.com/
伊藤東凌_瞑想指導 https://twitter.com/toryo_ito


伊藤東凌(いとう・とうりょう)
臨済宗建仁寺派両足院副住職 株式会社InTrip代表取締役僧侶 建仁寺派専門道場にて修行後、15年にわたり両足院にて坐禅指導を担当。アートを中心に領域の壁を超え、現代と伝統を繋ぐ試みを続けている。
アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。 Tatchaウェルビーイングメンターや国内企業のエグゼクティブコーチも複数担当する。著書『月曜瞑想〜頭と心がどんどん軽くなる 週始めの新習慣〜』(アスコム)



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